2015年6月23日火曜日

全科合同スペシャル・プログラム!

ファイン系だろうが、デザイン系だろうが、美大を目指すのであれば、
『絵の具』に全くお世話にならないってことはないでしょう。

ということで、「絵の具メーカー クサカベ」さんにご協力いただいて、
絵の具についての理解を深めるための講義と実習を行いました。
クサカベさん。
まずは座学(講義)から。

『絵の具についての講習』

絵の具には、水彩用、油彩用、日本画用といった種類があります。
それらの違いというのは、“顔料”に混ぜる“糊”の種類の違いということになります。

絵の具 = 顔料 + 糊

“顔料”というのが色のもと。
鉱物などを砕いて粉末にしたもので、水や油には溶けないものを指します。
絵の具を水や油で溶いて使いますが、それは厳密に言えば、溶けているのではなくて、色の粒子が拡散している状態という事になります。

逆に、水溶性のものは、“染料”と言います。
ペースト状の絵の具を作る場合は、色の元になるものが粒子の状態で存在する必要があるので、完全に溶けてしまう染料では作れないのだそうです。なので、染料系のものを絵の具にする場合は、不溶性の白い粒子を染めて顔料の代わりにするとのことです。

今は、天然の鉱物を砕いて使うということはほとんど無くて、合成顔料がほとんどだそうです。
今回使うのは、人工のウルトラマリンですが、天然の鉱石で言えば、ラピスラズリという石がウルトラマリンの元になります。
人工ウルトラマリンの粉!
ラピスラズリは、装飾品にも使われる鉱石で、原産国はアフガニスタン。
現在はほとんど輸出されていないそうです。今出回っているものは、戦争が起こる前にストックしていたものを、少しずつ出しているんだそうです。ダイヤモンドほどではないにしろ、それなりに高価!です(笑)。
ラピスラズリの原石!これくらいで○万円?!
こういった鉱物を細かく砕いて粉末にすることによって、顔料にしていたのです。
つまり、このラピスラズリそのものが、ウルトラマリンの元の色なのですね。
天然顔料に比べて、合成顔料は、安くて、高性能で、非常に発色が良く、耐久性があると言えます。もちろん、どちらが良いとか悪いとかの話ではありませんが、現状の使いやすさで言えば、合成顔料という事になるでしょう。

顔料は、言ってしまえば「ただの粉」なので、それだけでは画面にくっつきません。
そのため、糊を混ぜて画面にくっつくようにしたものが「絵の具」なのです。

で、糊に何を使うかで、絵の具の種類が変わります。

 水彩絵の具 = 顔料 + アラビアガム
    アクリル絵の具 = 顔料 + アクリルエマルジョン
油彩絵の具 = 顔料 + 乾性油   
日本画絵の具 = 顔料(岩絵の具) + 膠

日本画では、顔料よりももっと粒子の大きいものを使うので、“岩絵の具”という言い方をします。
膠(ニカワ)は、動物(牛とか、兎とか、鹿とか)の皮や骨を煮溶かして固めたもの。だから「煮+皮」でニカワ。お菓子作りに使うゼラチンって聞いたことがあるかと思いますが、ゼラチンほど純度の高くないものが膠といえば分かりやすいでしょうか。純度が低い方が、接着力が強いそうです。
日本画の場合は、その都度自分で、湯煎して適当な濃度に溶かした膠と岩絵の具とを混ぜて使います。

使う糊の種類によって絵の具の種類が変わると説明しましたが、絵の具の種類だけではなく、顔料の発色具合も変わります。
ウルトラマリンのビヒクルによる発色の違い。
“ビヒクル”というのは、展色材とも言い、顔料を均等に分散・付着させる媒体となる液状成分のことで、いわゆる「糊(+溶剤)」の事です。バインダーとも言いますね。
顔料と糊だけだと絵の具として扱いにくいので、溶剤を混ぜて濃度や粘度を調整するのです。
水彩絵の具に使うアラビアガムや、アクリル絵の具に使うアクリルエマルジョンは、水溶性なので、溶剤として水を使います。この水分が蒸発することによって、顔料が糊で画面に固定されます。
油彩絵の具の場合は、糊となる乾性油自体が溶剤の役割も兼ねており、酸化して硬くなる性質を利用して、画面に顔料を固定させます。他の絵の具と違って、“痩せ”がほとんどないのも油彩絵の具の特徴です。

糊の違いによって、さらに、透明度や艶、質感、耐水性も変わります。
透明度で言えば、水彩絵の具は糊の割合によって、透明水彩と不透明水彩に分かれます。

透明水彩絵の具 → アラビアガム30%溶液
不透明水彩絵の具 → アラビアガム10%溶液

透明水彩絵の具というのが、いわゆる水彩絵の具(ウォーターカラー)のことで、
不透明水彩絵の具というのが、ポスターカラーとか、ガッシュのことです。

透明水彩絵の具(ウォーターカラー)の特徴

糊の割合が多い → 顔料の密度が低い → 粒子のあいだに糊がある → 下地が透ける。
   ↓
顔料の上にも糊がある状態で乾く → 見た目がちょっとしっとりした感じになる。


不透明水彩絵の具(ポスターカラー、ガッシュ)の特徴

糊の割合が少ない → 顔料の密度が高くなる → 下地が透けない。
   ↓  
顔料がむき出しの状態で乾く → マットな質感になる。
   ↓
もとの顔料の色の再現性が高い。

ちなみに、日本画絵の具も、糊の割合が非常に少ないので、顔料の色の再現性が高いです。
その他、卵黄テンペラも再現性が高いものの一つです。
逆に、油彩絵の具は、糊となる乾性油が顔料を包んだ状態でそのまま固まるため、色の再現性は低めで、乾性油の種類によって艶が変わります。

水彩絵の具とポスターカラーやガッシュは、アラビアガムの配合の違いだけなので、混ぜて使っても問題がないと言えます。アラビアガム自体にもそんなに種類がないので、どのメーカーさんのものでも、混ぜて大丈夫とのこと。

アクリル絵の具も同じ理屈で、アクリルエマルジョンの割合の違いによって透明・不透明に分かれます。
デザイン・工芸科御用達、アクリルガッシュ!
アクリルエマルジョンとは、アクリル樹脂の微細な粒子が水分中に分散された物です。
水彩絵の具のアラビアガム同様、水分が蒸発することによって、アクリル樹脂が固まり顔料が画面に固定されます。
アクリル絵の具も透明のものと、不透明のものを混ぜて使っても差支えはないのですが、
アクリル絵の具に関しては、混ぜるなら同じメーカーさんのものにした方が良いそうです。
アラビアガムと違って、アクリルエマルジョンはとにかく種類が多く、組み合わせによっては、早く固まってしまったり、ごわごわしてしまったりなどといった不具合が生じる可能性があるんだそうです。

水彩絵の具もアクリル絵の具も、同じ水溶性の絵具ですが、違いは乾いた後の耐水性です。
水彩絵の具は、乾いた後も濡れると滲んでしまいますが、アクリル絵の具は一度乾いてしまえば、濡れても滲むことはありません。耐光性にも優れていて、屋外での展示もOKです。
逆に、水彩絵の具は一度乾いてしまっても、水を加えることによって元に戻るので、こんな使い方もできます。
THE NIHONGA PARETTE !
パレットにあらかじめ絵の具を出しておいて、そのまま乾かします。使う時には水分を含ませれば、元通り使うことができるのです。いちいち絵の具を出したりする手間が省け、チューブで持って歩くより、荷物が減ります(笑)。絵の具の節約にもなるそうです。

さて、それではいよいよ『世界に一つだけの水彩絵の具作り』に入っていきましょう。





というところで、また次回!

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